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とののタイでの日常を書くブログ

日本での仕事

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oldkingtono.hatenablog.jp

 

ということで、色々仕事はあったけど、1万本のイチゴの苗をタイに輸出するというメインの任務があっての今回の日本出張でした。

 

ここで問題なのが、「植物防疫」。
海外と植物を輸出入する場合、病害虫を海外に持ち出したり、海外から持ち込んだりしないために、植物検疫を通過しなければいけない。

 

今回のイチゴの苗の輸出ももちろん植物検疫を受けなければならない案件なのだが、今回最も問題になってくるのは「」。

土の中には色々な病原菌が潜んでいる可能性があるし、虫の卵などもあるかもしれないので、土は海外には持ち出せない

 

しかし、今回イチゴの苗を色々なイチゴ農家さんから買い付けするのだが、もちろんイチゴの苗は土を入れたポットに入れて育てている。

 

ポットに入っている苗

 

根っこが絡み付いて簡単に土は落ちない

 

 

ということでどうするかというと、イチゴの苗を全て洗って根っこから土を落とす。
その数1万本!!!

 

家庭菜園とかやっている人ならわかるかもしれないけど、植物の根っこはかなり絡み付いているので簡単に土なんて落ちないのでまあこれが大変。

 

 

土を落とした苗

 

そして土を落とすのが今回のゴールではなく、土を落とした苗を無事に植物検疫を通過させ、タイまで送り届けるのが仕事。

土を落とした苗は裸同然で、すぐに枯れてしまうので、枯れないように管理をしなければいけないし、植物検疫や輸出手続きなどもしなければいけない。

もちろん1万本なんて数は1人で洗うことできないので日雇いの人は雇うけど、その辺の日雇いを集める手続きもめんどくさいし、今回現場が三重、福島、静岡、福岡と遠かったのでかなり大変だった…

 

ただ今回の仕事は今まで経験ない植物の輸出だったことと、農家さんの現場から羽田への輸送手続きまで全部を担当したので勉強になった。

 

まず、植物の輸出に関して。
正直なところ、自分は前職の商社で水産物担当だったので、入社した時の研修以来、植物検疫なんて行ったことなかった。

実際、俺が植物を担当してたとしても、その辺の現場仕事を商社は全て「forwarder(フォワーダー)」と呼ばれる運送会社に任せてしまうので、商社マンが実際に植物検疫などに行くことはほとんどない。

 

余談だけど、よく商社は貿易してるから通関とかもやってると思われるけど、通関とか各種検疫とかはforwarderがやってくれるので、商社マンが現場に行くことはほとんどない。
そして何かトラブルで検疫通らなかったり、通関が切れなかったりするとforwarderは怒られるので可哀想…

 

今回、三重、福島、静岡の案件では横浜の本庁植物検疫、福岡では福岡空港の植物検疫に行った。

植物検疫では根っこに土が付いていないか、葉っぱなどに虫が付いていないか、苗の数は申請通りの数なのかをチェックされる。

ここで問題がなければ「検査証明書」を発行してもらえるが、土が残っていたり虫が発見された場合などは「再検査」になってしまう。

 

 

植物検疫での検査

 

 

今回、かなり念入りに洗ったのでなんとか再検査にならずにすんだけど、ここで思ったのが「あれ、品種の検査とかはしないの?」ということ。

 

農業をやっていると痛感するけど、「品種の壁」というのはどんなに頑張っても超えられない」。

例えば、サツマイモでは古い品種の「紅あずま」という品種と比較的最近開発された品種の「紅はるか」という品種がある。

品種が違うと味も違うわけで、「紅あずま」をどんなに手をかけて頑張って作っても、普通にあんまり手間をかけずに作った「紅はるか」より甘くなることはない。

それは「紅はるか」が品種改良され「紅あずま」よりも甘い品種だから。

 

ウガンダでもタイでもローカルのサツマイモを食べると、甘みなんて全くないしパサパサで美味しくない。

タイのミカンは酸っぱい上に種がめちゃくちゃあって美味しくないし、イチゴは酸っぱくて硬くて美味しくない。

そういうのを食べる度に、日本の品種改良はすごいなーと感じる。

 

植物の品種改良にはかなり時間と労力がかかるので、新品種を開発した人や団体がその権利を独占できるように「育成者権」というものがある。(著作権みたいなもん)

 

育成者権はものによって変わるけど大体15年〜20年ぐらいはあって、その育成権が消滅するまでは国内で栽培する場合は、利用料などを払えば栽培することはできるが、海外への持ち出しは基本的に禁止。(育成者が望めばOKだけど)

 

農水省の品種登録のページ

 

だけど実際のところ、品種登録されて海外持ち出し禁止の品種が、海外で栽培され売られているのが現状。


よく言われているのが「シャインマスカット」で、農業新聞によると、2020年時点で日本の栽培面積の30倍の栽培面積が中国ではあるらしい。

実際、自分もタイで禁止されている日本の品種が違法に栽培されているのは何度も見てきた。

その品種流出の最後の砦となるのが植物検疫だと思うので、ここで顕微鏡などを使って品種のチェックなどが入るのかと思いきや、「種苗法は守っていますか?」の一言質問されるだけで終了。

もっと厳しくやらなくていいのだろうか…。

 

 

福岡空港の検疫所は暇そうだった。国家公務員の地方勤務っていいよなぁ。

 

そんなこんなで植物検疫をクリアすると、そのまま羽田の国際貨物ターミナルへ。
国際貨物ターミナルなんて入ったことなかったからワクワクした。

 

羽田の国際貨物ターミナル

 

ここで実際に貨物を届けて、貿易書類の手続きなどをして終了。
商社マンの時は電話で運送会社手配して終わってただけだけど、実際に運送会社とかがどんな仕事をして、貨物がどのように動いているかを見ることが出来ていい経験になった。

 

今回の出張では久しぶりに商社っぽい仕事が出来たし、自分の貿易知識がまた増えたと思うからいい出張だった。